テナントビル 新築
延床面積:約500㎡
敷地面積:約217㎡
用途:店舗、事務所
着工:2023年 1月
担当:基本計画、基本設計、工事監理(実施設計:Royal C Planning)
施主:東京レーベル
施工:Royal C Planning
写真:小山内大輔
豪徳寺は、招き猫発祥の地として有名な場所です。
井伊直弼が江戸郊外に鷹狩りに出たときの帰り道、弘徳庵の前を通った際に、飼われていた猫に手招きをされたそうです。猫に従い門に入った途端激しい雷鳴と豪雨が立ちこめましたが、井伊直弼は猫のおかげで難を逃れました。猫と弘徳院に感謝した井伊直弼は寺の再建に尽力し、やがて猫が亡くなると、院の和尚は猫を祀ったお堂を造り右手を挙げた猫の姿をかたどった「招福猫児」を作るようになりました。これが不運を避けて福を呼び込む招き猫の由来とされています。
このような土地の歴史に敬意を表し、歴史を建物の外観に表現することで街並みに奥行きを与える存在として周囲からも、街を訪れる人からも親しまれる商店建築を目指すべく、招き猫の由来の街である豪徳寺の「招き」を現代風に解釈し、招きを示唆するアーチを多数取り入れた外観デザインとしました。
ランドマーク性のある現代的な表情ながらも、歴史的な意味合いを含み、二面性を持つ奥行き感のあるファサードを目指しています。
豪徳寺駅から連続する山下商店街の端部に位置するこの場所で、モダンで新しい風を生み出すランドマークをつくり、それによって人の流れをさらに強め、商店街の活性化にも寄与・貢献することも目指した提案です。
まとめ
■デザインのポイント
1.地域性を反映した街並み:「福を招く地」を表現したランドマークの形成
2.地域に根付く街づくり:コンセプトの事前共有による、テナントとの相乗効果の創出
3.防災機能とデザインの融合:1階ピロティによる路面空間の拡張と、2/3階避難バルコニーをアーチで融合
■デザインが生まれた理由・背景
多くの商店街において、老朽化・更新の時期を迎える建物は、防災・安全上の観点から建替えが行われているが、路面に対して全面ガラスとするような「テナントサインに依存したファサードデザイン」によって、画一的な街並みとなってしまう状況が起こっている。一方で、豪徳寺は「招き猫発祥の地」として多くの人に浸透しており、誰にでも共有しやすいコンセプトづくりを通して、事業者・建築家・テナント・利用者の想いを重ね合わせることで、地域に根差した、そこでしかできない経験ができる街づくりを目指した。
■デザインを実現した経緯と成果
地域に根差したデザインというのは、歴史的な意匠を採用したデザインだけではない。現代的な表現であっても、事業者・建築家・テナント・利用者の想いが重なることで、ハード・ソフトの両面で、地域に根差した独自の風景が生まれていくはずだ。本計画では、地域性をひも解いたデザインコンセプトを入居希望者に事前に共有し、地域に根差した開発への想いを共有することで、結果、周辺住民や地域外からの来訪も見込まれるテナントが入居することとなった。完成後、多くの来訪者が訪れ、豪徳寺 山下商店街のランドマークとして多くの人の記憶に残る街並みづくりに貢献している。