With Horse

住宅設 新築
延床面積:約120㎡
敷地面積:約2900㎡
用途:個人住宅+馬房(兼 将来の貸切型宿泊施設への転用を想定)
photo by 海老原一己 / GlassEye Inc.

一番の命題として与えられたのは馬と一緒に暮らせる家ということでした。家に馬を飼い、馬の顔を見ながら暮らし、そこで乗馬する環境をつくること。
富士山が見える敷地を選び、自然を感じながら暮らすこと。
コロナによる在宅リモート業務が普及したからこそ、実現できるようになった暮らし。
都心のマンション暮らしから一変して、郊外で暮らし、リモートで仕事をし、合間に馬の世話をしながら馬に乗り、時々必要に応じて東京に出掛けて仕事をする。郊外で暮らすからには、郊外における良さを最大限享受できる家づくりを目指しました。

一方で、郊外に暮らすから、夫婦2人で寂しく過ごすのではなく、友人や親戚を招いて楽しめる家にしたい。テラスでBBQをしたり、乗馬を見てもらったり、ゲストを呼んで人が集まる家に。

これらの要望に重ねるように、宿泊施設の性格を与えることで家の資産価値の維持向上もコンセプトのひとつに加えました。
建築の生涯を考えた時、もしかすると、いつかこの家を手放す時がくるかもしれない。その時、郊外というだけでなく、「馬と暮らすという特殊解」を使いにくくて手のかかる資産価値の低い、残念な家として売りに出されることが無いよう、非日常感を体験できる貸切型宿泊施設として容易に生まれ変わることができるように、ホテルの性格も備えた空間となるよう計画しました。

広大な敷地に対して、馬房を除いた面積は約78㎡と小規模に抑えつつも広い敷地を活かした平屋とし、「狭い」と感じさせないよう、部屋の仕切りを極力排除し、「広がりや連続性」を意識した計画としました。
一体的な空間を緩やかに分けるため、隔壁やルーバーを設けて、それらによって逆に広がりを感じさせるよう仕掛けを設けています。

また、玄関の外から、室内、テラスと全て同じ床タイルで統一することで、一層広がりを感じさせるようにしています。
リビングのルーバー越しには、照明の柔らかい光を感じさせたり、その奥にロフト空間が続いていると意識させることで、長方形のシンプルなリビングでありながらも、広く奥行きの感じられる空間を目指しました。

将来を見据えた「非日常を感じさせるホテル」としての味づけとしては、

・非日常感を与えるため、
 ・大きな重量感のある玄関ドア
 ・ゆとりある土間空間 ・最大3.8mの天井高
 ・目線が完全に開ける約2.4mの窓
と、総じてスケール感を一般的なものから変えていくことで、非日常の体験を実現します。

また、木造でひとつの連続した空間を実現する際に、長辺方向に壁が最小限で済むよう、屋根に合成を持たせるという工夫を凝らしています。

また、スケール以外にも、
・自然素材をふんだんに使用し、且つ使用する素材を数種に限定、さらにウチとソト共通の床仕上とすることで洗練された統一感づくりを目指して計画しました。

・外観は「コントラスト」をシンプルに表現したものです。周辺の緑とのコントラスト。大地とのコントラスト。そして、家の中の柔らかさとのコントラストの3つです。
・シンプルにすることでコストを抑えつつもウチとソトでメリハリを感じさせ、中に入った時のアライバルエクスペリエンスを高め、入るたびに感動を与える、そんな目論見で計画をしました。

竣工後も、外構まわりを徐々に手を入れ、緑と乗馬の練習場を整備していく予定です。

こうして出来上がった家が、施主にとっても、馬にとっても、将来のまだ見ぬ使い手にとっても、それぞれにとって特別な体験を与えられる建築になることを願ってやみません。

設計時のイメージパース